Patent Law: 2024年7月スタート:台湾・医薬品/農薬の特許期間延長制度のポイント整理

 先週、日本の取引先が弊社を訪問してくださったのをきっかけに、台湾で2024年7月1日に施行された「医薬品・農薬に関する特許権期間延長制度」について資料を準備しました。

せっかくなので、ここでも内容を簡単にまとめてご紹介します。


1.なぜ「特許権期間延長」が必要なのか?

医薬品や農薬は、研究開発から上市までに長い時間と多額のコストがかかります。
特に、

  • 臨床試験・田間試験の期間

  • 規制当局による承認審査の期間

といったプロセスの間は、特許自体は成立していても、市場で自由に実施できない期間が発生します。

その結果、

「公報上の存続期間より、実際に独占できる期間がかなり削られてしまう」

という問題が生じます。

こうした状況を一定程度補償するために設けられたのが、今回の「医薬品・農薬に関する特許権期間延長制度」です。


2.台湾の新制度の基本的な枠組み

今回の制度のポイントを、まずはざっくり整理すると次のとおりです。

  • 対象:

    • 医薬品・農薬 そのもの

    • それらの製造方法に関する発明特許

  • 延長期間:

    • 実施不能期間を基礎としつつ、累計5年を上限として延長可能

  • 対象外:

    • 新型特許、意匠特許

    • 医療機器、化粧品、健康食品などは原則対象外

つまり、人の健康・生命や農業生産に直結する「薬そのもの+製造方法」にフォーカスした制度と理解していただくとイメージしやすいと思います。


3.キーワードは「第一次許可証」

延長のベースとなるのが、いわゆる「第一次許可証」です。

  • 同一有効成分

  • 同一用途(適応症・用途)

について、最初に発行された許可証が「第一次許可証」となり、この許可を基礎にして、特許権期間延長の申請を行います。

ここで重要なのが「同一性」の考え方です。

  • 塩、エステル、水和物など、形態が異なっていても

  • 同じ効能・用途であれば「同一用途」に含まれうる

と解されるため、クレームの書き方と、実際の承認内容との対応関係が非常に重要になります。


4.誰が・いつ・どのように申請するのか?

申請主体

原則として「特許権者」が申請人となりますが、

  • 専用実施権者による申請

  • 共有特許における各共有者による単独申請

なども想定されています。

また、第一次許可証の名義人と特許権者が異なる場合には、両者の関係性(ライセンス契約等)を示す書類の提出が求められます。

タイミング

第一次許可証の発行後、法令・審査基準で定められた一定期間内に延長申請を行う必要があります。

申請にあたっては、

  • 延長申請書

  • 第一次許可証に関する情報

  • 実施不能期間に関する説明・証拠(試験期間、審査期間の記録など)

といった資料を揃えたうえで、特許庁(TIPO)の審査を受けることになります。


5.延長期間はどのように計算される?

延長の対象となるのは、原則として

「実施不能期間 - 申請人側の遅延」

です。

医薬品の例

  • 国内外で行った臨床試験の期間

  • 台湾での承認審査に要した期間

などが「実施不能期間」として考慮されますが、申請人側の手続遅延や補正遅延といった部分は控除されます。

農薬の例

  • 田間試験の期間

  • 台湾での登記審査の期間

などが同様の考え方で扱われます。

「どこからどこまでを実施不能期間とみなせるか」の判断が重要になるため、
開発・承認プロセスの各ステップについて、日付ベースで記録を残しておくことが、後々の申請をスムーズにします。


6.実務で気をつけたいポイント

今回の新制度を念頭に置くと、
日本企業・台湾企業にとって、次のようなポイントが実務的な検討事項になってきます。

  1. クレームドラフティングの段階からPTE(延長)を意識する

    • 有効成分の範囲(塩・エステル・水和物・プロドラッグなど)

    • 用途の書き方と、将来想定される承認内容との整合性

  2. 臨床試験・審査のタイムラインをきちんと証拠化する

    • 試験開始日・終了日

    • 当局への提出日・照会回答日

    • 申請人側に起因する遅延の有無

  3. 同日複数許可・複数特許のシナリオをシミュレーションする

    • 同一成分・同一用途で、用量違い等による複数の許可が同日に出る可能性

    • 1つの第一次許可証を、どの特許に紐づけるのが最も合理的か

  4. 特許ポートフォリオ全体での戦略を立てる

    • 延長の“核”となる特許と周辺特許の役割分担

    • 無効リスクの高いクレームのみに依存しない構成


7.おわりに ― 日本企業にとっての意味

今回ご紹介した台湾の「医薬品・農薬に関する特許権期間延長制度」は、日本や欧州などの制度と共通する部分も多い一方で、

  • 第一次許可証の捉え方

  • 同一用途・同一成分の判断

  • 同日複数許可・複数特許の取り扱い

など、運用の細部に台湾ならではのポイントが見られます。

台湾で医薬品・農薬関連の開発・販売を検討されている企業にとって、この新制度は、今後のライフサイクルマネジメントに大きく影響してくる可能性があります。

本記事が、台湾における権利化・承認戦略を考えるうえでの入口として、少しでも参考になれば幸いです。

(参考:TIPO「第十一章 專利權期間延長」2024年7月1日施行版 https://www1.tipo.gov.tw/PatentExamGuide/WORD1/0211.html)


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